概要
欧州連合(EU)の暗号資産市場規制(MiCA)が2024年6月に施行されて以降の1年間で、ユーロに価値を連動させたステーブルコイン(ユーロ建てステーブルコイン)の市場時価総額が倍増したことが、決済処理企業Dectaの調査報告書で明らかになった。これは規制施行前の1年間に記録した48%の縮小から一転した動きであり、発行者の義務や準備金要件の明確化が市場の回復を後押ししたと分析されている。
背景
ユーロ建てステーブルコインは、時価総額で約3000億ドル規模に達する米ドル建てステーブルコイン市場(テザーのUSDTやサークルのUSDCが支配的)と比較して、歴史的に市場浸透に苦戦してきた。MiCA規制は、こうした暗号資産、特にステーブルコインの発行者に対して、より厳格な準備金保有や投資家保護の義務を課すことで、市場の透明性と信頼性の向上を目指している。
企業動向
市場の成長は特定のトークンに集中している。マルタに拠点を置くStasisが発行するEURSは、2025年10月までに時価総額が644%増加し、2億8390万ドルに達した。また、Circle Internet FinancialのEURCと、フランスの金融大手ソシエテ・ジェネラル傘下SG-Forgeが発行するEURCVも、それぞれ顕著な成長を記録した。
市場分析
報告書によると、ユーロ建てステーブルコインの市場時価総額は、2025年5月までに約5億ドルに達し、CoinGeckoのデータによれば現在は6億8000万ドルとなっている。取引活動も活発化し、MiCA施行後の月間取引量は3億8300万ドルに達し、以前の3億8300万ドルから約9倍に拡大した。特にEURCとEURCVの取引量は、それぞれ1139%、343%増加し、決済、法定通貨との出入金、デジタル資産取引における利用増が牽引した。
業界への影響
規制の明確化は、消費者や企業の信頼醸成に寄与している可能性がある。Dectaの調査では、EU域内でのユーロ建てステーブルコインに関する検索関心が急上昇しており、フィンランドでは400%、イタリアでは313.3%の増加が確認された。キプロスやスロバキアなど他の市場でも、小規模ながら着実な増加が見られる。
投資家の視点
報告書は、MiCAによる規制枠組みの確立が、従来の米ドル建てステーブルコインに比べて存在感の薄かったユーロ建てステーブルコイン市場の回復と成長の転機となった可能性を示唆している。発行者に対する義務と準備金基準の標準化が、市場参加者の信頼を高めたとみられる。ただし、現在のユーロ建てステーブルコイン市場の規模は、巨大な米ドル建てステーブルコイン市場と比較すれば依然としてごく一部に留まっている。
まとめ
EUのMiCA規制施行後1年間で、ユーロ建てステーブルコイン市場は時価総額の倍増、取引量の急拡大、消費者認知度の上昇という形で顕著な回復を見せた。規制環境の整備が市場の信頼性を高め、特定の主要トークンを中心に成長を促したことが確認された。これは、同市場が潜在的な転換期を迎えつつある可能性を示す兆候と言える。