概要
ステーブルコインの用途が、暗号資産ネイティブな取引所から、決済、給与支払い、企業財務管理へと急速に拡大している。Alchemy共同創業者兼社長のジョー・ラウ氏は、24時間365日可能なデジタルネイティブな決済を求める企業の動きが背景にあると指摘する。一方、銀行は規制下で同様の利点を提供する「トークン化預金」を推進。最終的には、オープンな二者間決済にはステーブルコイン、銀行エコシステム内には預金トークンという二軌道システムが形成され、規模の拡大とともに収斂と競争が進むと同氏は見ている。
背景
ここ数年、ステーブルコイン市場はテザーのUSDTとサークルのUSDCによる二強状態が続き、活動の大部分は暗号資産取引所に集中していた。しかし、現在は状況が大きく変化しつつある。
企業動向
ラウ氏によれば、銀行に加え、決済製品を構築するフィンテック企業もステーブルコインを評価している。決済プラットフォームやプロセッサーではStripeの活動が、また給与支払い事業者や企業財務ソリューションにおいても、ステーブルコインが業務の一部として検討され始めている。ステーブルコインは法定通貨や金に連動する暗号資産で、暗号資産経済の基盤として、支払いインフラや国際送金の手段として機能している。
市場分析
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの報告によると、ステーブルコインの総時価総額は2025年9月に3000億ドルに達し、前年同期比75%増加した。ウォール街の大手シティグループは、ステーブルコイン市場の成長が予想を上回っているとし、2030年までの発行高予測をベースケースで1.9兆ドル、ブルケースで4兆ドルにそれぞれ上方修正した(従来予測は1.6兆ドル、3.7兆ドル)。
業界への影響
ラウ氏は、規制の明確化がより多くの伝統的プレイヤーをこの分野に引き寄せていると述べる。ルールが明確になるにつれ、銀行、ネオバンク、送金に特化したフィンテック、大手決済会社といった従来型金融からの採用が広がると予想している。なぜなら、ステーブルコインはこれらの企業が既に提供しているユースケースに直接組み込むことができるためだ。
投資家の視点
将来を形作るもう一つの大きな力として、銀行が開始した「トークン化預金」がある。ラウ氏はこれをステーブルコインを補完する「代替手段」と表現する。このモデルでは、銀行は顧客に低い送金手数料や迅速な決済といったステーブルコインと同様の利点の多くを提供できるが、既存の規制枠組みの下で、資金は銀行に留まったままとなる。JPモルガンのJPM Coinがその例で、HSBCも関心を示している。現状では、ステーブルコインはよりオープンで任意の二者間で決済可能だが、トークン化預金は銀行自身の顧客向けのクローズドループな設計となっている。長期的にはこの境界は曖昧になるとラウ氏は見ており、銀行はトークン化預金から始めつつ他のトークン化資産のための基盤構築を考え、一方でステーブルコイン発行者は資本効率性などの理由からより銀行に近い形態を目指す動きがある。
まとめ
ステーブルコインの採用は、取引所以外の実用的な領域へと爆発的に拡大している。規制の明確化と伝統的金融機関の参入が市場を加速させ、同時に銀行はトークン化預金という独自のアプローチで対抗している。今後は、オープンなステーブルコインと銀行エコシステム内の預金トークンという二つの軌道が、補完と競争を繰り返しながら金融インフラの次世代形態へと収斂していく可能性が高い。