概要
分散型物理インフラネットワーク(DePIN)は、既存のWi-Fiルーターやデバイスをネットワークノードとして活用し、従来の高コストな通信インフラに代わる新たなモデルを構築している。Uplink共同創業者のカルロス・レイ氏は、技術の真の大衆普及は、暗号通貨愛好家が使う時ではなく、祖母のような一般ユーザーが意識せずに利用する時に訪れると論じている。DePIN業界の市場規模は2025年6月時点で推定250億ドル、2028年には3.5兆ドルに達すると予測されている。
背景
従来の通信インフラ(携帯電話基地局など)は、用地取得、許可、維持管理、マーケティングに多額のコストがかかり、重厚で拡張に時間がかかる。1つの小規模セル基地局の設置でも最大30万ドル、大規模な展開では500万ドルから1億ドルの費用が必要で、拡張には数ヶ月から数年を要する。このシステムでは、ユーザーは使用するデータ量そのものではなく、それを取り巻く官僚的なコストを支払っている状況にある。
企業動向
複数のDePIN関連プロジェクトが既に展開されている。NodleはスマートフォンをIoTデータの中継ノードに変えるスマートフォンベースのDePINである。Helium Mobileはコミュニティが展開するホットスポットと小型セルを利用し、米国都市部で5Gエリア拡大と通信事業者のトラフィックオフロードを実現している。DIMOは接続車向けDePINネットワークで、ドライバーが車両データを共有・管理し報酬を得られる仕組みを提供しており、2025年時点で約42万5千台の車両が接続、そのデータを利用した300以上のアプリが開発され、約15億ドル相当の車両からデータがプロトコルに流れ込んでいる。DePINスタートアップは既に数百万人のユーザーをプラットフォームに導き、日々数万人の新規ユーザーを追加している。
市場分析
暗号資産運用会社グレイスケールは、DePINを「重要な」投資機会と位置付けている。業界の時価総額は2025年6月時点で推定250億ドルに達し、2028年までに3.5兆ドルに成長すると予測されている。DePINはネットワークトークンを用いたシンプルな経済設計で運営され、ノード(ルーターなど)と通信事業者や企業ユーザー間のインセンティブと決済を調整し、安定したネットワーククレジットにより価格の予測可能性を確保している。
業界への影響
通信事業者にとって、DePINはコスト効率化のエンジンとなる。トラフィックをローカルのWi-Fiノードにオフロードすることで、特に屋内やピーク時のギガバイト当たりコストを削減できる。ネットワークオフロード自体は新しい概念ではないが、DePINはその実現方法を革新する。ベンチャーキャピタルa16z cryptoは、DePINの応用範囲は通信以外にも広がるとし、AI、医療、エネルギー、運輸、ロボティクスなど他のセクターにも革命をもたらす可能性を指摘している。
投資家の視点
DePINは、既存の資産(ルーター、スマートフォン、車両など)を活用する「ソフトウェアファースト」アプローチにより、従来の資本集約型インフラに比べ参入障壁が低く、拡張性が高いモデルを提供する。コワーキングスペースや小規模オフィスの運営者にとって、Wi-Fiは単なるコストから収益を生む資産へと変わり得る。ユーザーにとっては通信障害の減少、より滑らかな接続、低コスト化が期待される。一方で、規制環境や既存事業者との競合・協業の動向、ネットワークセキュリティなど、今後の発展には課題も存在する。
まとめ
DePINは高コストで硬直的な従来の通信インフラに対する分散型の代替手段として台頭しており、日常生活に溶け込みつつある。その普及の度合いは、技術を意識せずに利用する一般ユーザー(著者の言う「祖母」)の存在によって測られる。市場規模の急成長が予測される中、通信を超えた多様な産業への応用可能性も注目されている。