概要
米ドルの価値と信頼が大きく揺らぐ中、その価値に連動する主要ステーブルコイン(USDT、USDC)の将来性に疑問が投げかけられている。著者は、物理的金(ゴールド)の裏付けを持つ新たなステーブルコインが、経済的安定性を提供し、米ドルに依存しない次世代の価値保存手段として台頭する可能性を論じる。ブルキナファソにおける資源担保ステーブルコインの具体的事例も紹介されている。
背景
ステーブルコインは、ビットコインのような値動きの激しい暗号資産とは異なり、価格が安定していることを特徴とし、分散型金融(DeFi)エコシステムの中核として、これまでに275兆ドル以上の価値移転を支えてきた。しかし、その大多数は米ドルの価値に連動(ペッグ)しており、基軸通貨である米ドルそのものの安定性に依存している。
市場分析
2025年、米ドルは約11%の価値を失い、これは過去50年間で最大の下落率である。米国の経済政策への不確実性と、38兆ドルに達する巨額債務が不安材料となっている。このドルの不安定性は、金やビットコインの価格上昇という形でも表れており、安全資産への逃避が起きている。現在のステーブルコイン市場は、時価総額1833億ドルのテザー(USDT)と759億ドルのサークル(USDC)が93.8%のシェアを占め、市場を支配している。
企業動向
ステーブルコインを発行する主要企業であるテザーは、流通する各USDTが1対1で米ドルによって裏付けられていると主張する一方、その準備金の完全な監査を公認会計士事務所に実施させておらず、透明性の欠如が長年批判されている。サークルについては、テザーに取って代わるだけの規模と資金力、および暗号資産コミュニティ内での同程度の求心力があるかどうかが課題とされている。両社とも米ドルへの依存度が極めて高い。
業界への影響
米ドル離れの動きは顕著で、BRICS諸国はドルを避け、自国のデジタル通貨を用いたブロックチェーン決済システムでの取引を推進している。中国は人民元の国際化を強力に推進し、世界決済通貨で第4位、対外貿易の30%以上を人民元で決済している。こうした地政学的なシフトは、ドルペッグ・ステーブルコインの基盤を脅かす可能性がある。
投資家の視点
ドルの信頼低下は、それを基盤とするステーブルコインの根本的リスクとなる。一方で、実物資産である金に裏付けられたステーブルコインは、経済不安定期におけるより強固な価値の保存手段(安全資産)として機能し、新興国・途上国におけるハイパーインフレリスクへの対抗策となり得る。これにより、これらの地域への投資を促す可能性がある。
まとめ
米ドルの衰退が現実味を増す中、従来のフィアット通貨担保ステーブルコインのモデルは大きな転換点を迎えている。中央銀行が保有する巨額の金準備を裏付けとし、国家や大規模金融機関が主導する金担保ステーブルコインが、より安定した次世代のデジタル価値交換手段として登場する可能性が高まっている。ブルキナファソの事例は、その動きがすでに始まっていることを示唆しており、通貨システムのパラダイムシフトが理想から必要性へと変化しつつある。