概要
日本銀行(日銀)が12月18-19日の金融政策決定会合で利上げに踏み切る可能性が高まっており、市場はその世界的な影響を警戒している。特に、超低金利の円を借りて他の通貨に換え、より高い利回りを求める資産(リスク資産)に投資する「円キャリートレード」が巻き戻されることで、米国株や暗号資産(ビットコインなど)に売り圧力がかかる懸念が強まっている。市場は25ベーシスポイントの利上げ確率を90%と見込んでおり、日本の国債利回りは急上昇中だ。
背景
円キャリートレードは過去約30年間、世界的なリスク選好を支える重要な資金源となってきた。投資家は超低金利の円を借り、米ドルなどに換えて、米国株式、債券、ビットコインなどの暗号資産といったより高いリターンを期待できる資産に投資してきた。日本で金利が上昇したり円高が進んだりすると、この取引の採算が悪化し、急激なポジション解消(アンワインド)とそれに伴う資産売却を引き起こす可能性がある。
市場分析
市場は日銀の利上げを強く織り込んでおり、日本の2年物国債利回りは1%超(2008年世界金融危機以来の高水準)、10年物国債利回りは17年ぶりの高水準に達している。これは借入コストの上昇を示している。暗号資産市場は過去、こうした資金調達環境の変化に敏感に反応してきた。2024年8月の日銀利上げ時には、ビットコイン価格が4万9000ドルまで下落し、暗号資産市場全体の時価総額が6000億ドル消失、11億4000万ドルに上るレバレッジ取引(信用取引)のポジションが強制清算される事態が発生した。アナリストのポール・バロン氏は、同様のシナリオが繰り返される可能性があると警告している。
業界への影響
ヘッジファンドや機関投資家は、日本、米国、中国で同時進行する流動性引き締めの動きを注視しており、初期のストレスサインが現れ始めている。この稀に見る同時引き締めは、世界的なデレバレッジ(レバレッジ縮小)を加速させる可能性がある。暗号資産市場は資金ショックを最初に吸収することが多く、ビットコインやイーサリアムは流動性ストレスの先行指標となり得る。
投資家の視点
アナリストのグレート・マーティス氏は、日銀利上げを暗号資産およびグローバル市場に対する「炭鉱のカナリア」(危険の前兆)と表現している。一方、アナリストのネゲントロピック氏は、10月以降すでにほとんどのレバレッジは市場から排除されたと指摘する。同様に、ボブ・エリオット氏は、円キャリートレードは今日ではほぼ機能しておらず、20年前に重要だった取引へのノスタルジーが残っているだけだと主張している。しかし、仮に小幅な巻き戻しであっても、レバレッジの高い暗号資産ポジションや世界的なリスク資産に圧力をかける可能性はある。コイン・ビューローの共同創業者ニック・パックリン氏は、量的緩和(QE)は通常の利調整ではなく、歴史的に危機の後に実施されると指摘。現在の引き締め環境下では、流動性支援が行き渡る前に市場はさらに下落を経験する可能性があり、安易なマネーを前提とした投資は予想以上の変動に直面し得ると述べている。
まとめ
日銀の利上げ観測が強まる中、数十年続いた「タダ同然の日本マネー」の時代は終わりを迎えつつある。市場はよりボラティリティの高い環境に直面しており、資産価格の主な推進力が、安易なレバレッジから本質的価値へと移行する可能性が高い。投資家は、日本国債利回り、米ドル/円レート、レバレッジポジションの動向を注視する必要がある。日本が引き締めを継続すれば、世界的なデレバレッジは2026年まで続き、暗号資産市場と伝統的市場の両方の耐性が試されることになる。