概要
トランプ大統領が署名した米国の新たな国家安全保障戦略は、同盟国への国防費増額要求などを通じ、世界的な財政拡大と軍事支出の増加を呼びかけている。これにより政府の借入増加と国債利回り上昇、インフレ圧力高進が懸念され、暗号資産市場が期待する迅速な利下げ環境の実現を複雑にする可能性がある。
背景
暗号資産市場は、米国をはじめとする世界各国の中央銀行による迅速な利下げ観測に支えられた相場形成が続いていた。市場参加者の間では、金融緩和的な環境がリスク資産である暗号資産にとって追い風になるとの見方が強まっていた。
市場分析
戦略文書は、NATO同盟国に対し国防費をGDP比2%から5%へ大幅に引き上げることを要求している。さらに日本と韓国にも支出増を促し、米国自身も西太平洋での軍事的プレゼンス強化を明言している。このような大規模な支出を賄うためには、各国政府の借入増加、つまり国債発行の増加が避けられない。経済理論上、国債供給の増加は利回り(債券価格の下落)と資本コストの上昇を招き、インフレ圧力を高める。この環境下では、中央銀行が利下げを行っても、その効果が国債利回りの上昇によって相殺される可能性が高い。
業界への影響
この戦略は「大規模移民の時代は終わった」とも明記しており、米国が従来のようなペースで安価な労働力を輸入しなくなる可能性を示唆している。これにより賃金の下方硬直性が強まり、さらなるインフレ要因となる恐れがある。こうしたマクロ経済環境の変化は、インフレヘッジ資産や安全資産と見なされる資産にとっては追い風となる。実際、金は年初来で60%上昇している(記事執筆時点)。一方、支持者から「デジタルゴールド」と称されるビットコイン(BTC)の価格は、同年間ベースで約5%の下落を示しており、インフレヘッジ資産としての実績はまだ限定的である。
投資家の視点
FRBは来週、政策金利を25ベーシスポイント引き下げて3.5%とする見込みである。しかし、国家安全保障戦略が呼びかける世界的な財政拡大圧力が強まる中では、本格的な利下げサイクルへの期待は後退する可能性がある。財政拡大とそれに伴うインフレ懸念が高まれば、中央銀行の金融政策の自由度は制約され、暗号資産を含むリスク資産にとっては従来想定されていたような強力な金融緩和のテールウィンドが弱まるリスクがある。
まとめ
トランプ政権の新国家安全保障戦略は、地政学的な方針を示すだけでなく、財政拡大を通じて金融市場と金利環境に直接的な影響を与える可能性を秘めている。暗号資産市場が熱望する低金利環境の実現に対する「現実チェック」となり得る一方、インフレ懸念の高まりはビットコインが「デジタルゴールド」としての地位を確立する機会ともなり得る。今後のマクロ経済動向と資産価格の関係性が、新たな段階を迎えようとしている。