概要
欧州連合(EU)では、暗号資産規制の監督を欧州証券市場監督局(ESMA)に集約する提案がなされ、一方でBNPパリバなど10の欧州銀行が2026年下半期を目標にユーロ建てステーブルコイン企業「Qivalis」を設立する計画を明らかにした。国際通貨基金(IMF)はステーブルコインが金融システムを不安定化させるリスクを警告する報告書を公表。米国では商品先物取引委員会(CFTC)が現物暗号資産商品の先物市場での取引を承認し、南アフリカ準備銀行も規制の不備を懸念する警告を発した。
背景
EUでは、暗号資産市場(MiCA)規制の加盟国間での適用にばらつきがあるとの懸念から、フランス、イタリア、オーストリアの3カ国がESMAへの規制権限移管を要請していた。また、デジタルサービス法(DSA)に基づき、ソーシャルメディアプラットフォームX(旧Twitter)に対し、違法・有害コンテンツへの対応不十分を理由に1億2000万ユーロ(約140億円)の制裁金が科された。DSAは、一定規模以上の暗号資産プラットフォーム、DeFiフロントエンド、NFTマーケットプレイスにも適用される。
企業動向
欧州の銀行グループ10行(BNPパリバ、デンマークのダンスケ銀行、オランダのING、オーストリアのライフアイゼン銀行国際など)は、ユーロ建てステーブルコインを発行する企業「Qivalis」を設立し、2026年下半期のサービス開始を目指す。同社はアムステルダムに本拠を置く。QivalisのCEO、Jan-Oliver Sell氏は、ステーブルコインが「デジタル時代」の利便性と通貨的自律性を提供し、欧州の企業と消費者が自国通貨でオンチェーン決済やデジタル資産市場と関わる新たな機会を与えると述べた。
市場分析
米国では、商品先物取引委員会(CFTC)のCaroline Pham代行委員長が、現物暗号資産商品の先物市場での取引承認は、これらの商品を「安全な米国市場」に移管するものだと説明した。この決定は、ホワイトハウスのデジタル資産市場作業部会の勧告や証券取引委員会(SEC)との協議を経たものだという。CFTCとSECは今年初め、ベストプラクティスに関する勧告共有と協議のための「Crypto Sprint」イニシアチブを設立している。
業界への影響
欧州委員会が提案したESMAへの権限集中は、欧州市場規制の効率化を目指す広範な取り組みの一環である。これにより、「特定の取引場、中央清算機関(CCP)、証券決済機関(CSD)、および全ての暗号資産サービス提供者(CASP)」の監督がESMAに移管される可能性がある。これは、暗号資産業界全体の規制環境をより統一的で中央集権的なものに変える動きを示している。
投資家の視点
IMFの報告書は、ステーブルコインに関連する複数のリスクを列挙している。価値の変動や取り付け騒ぎ、銀行の仲介機能喪失(ディスインターメディエーション)、金融システムとの相互連結、通貨代替などである。特に、外国建てステーブルコインの利用、特に国境を越えた文脈での利用は、通貨代替を引き起こし、特に非保管ウォレットが存在する場合、通貨主権を損なう可能性があると指摘した。一方で、銀行送金より迅速な取引(特に国際送金や送金)、遠隔地でのデジタル決済の促進、スマートコントラクトとの統合による取引相手リスク低減といった利点にも言及した。
まとめ
EUでは規制の集権化と銀行主導のステーブルコイン事業が並行して進み、米国では現物暗号資産商品の先物市場取引が正式に認可されるなど、規制環境が急速に整備されつつある。しかし、IMFや南アフリカ準備銀行が警告するように、特にステーブルコインについては、従来の金融システムへの波及効果や規制の国際的なギャップに起因するリスクが依然として大きな懸念材料となっている。暗号資産市場は、伝統的金融との融合が進む一方で、新たなシステミック・リスクの源として各国当局の警戒を強めている。